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走り始めて数分で脇腹がキリキリ痛むのは、多くの場合「運動関連一過性腹痛」と呼ばれる一時的な腹痛です。英語の略称でETAPとも呼ばれ、ランナーにはごくありふれた症状で、体への害は基本的にありません。原因の有力候補は、走るときの上下の揺れでお腹の内側を覆う膜どうしが擦れることと、内臓を支える靭帯が引っ張られることです。
痛みが走り始めに集中しやすいのは、体が温まる前にいきなり速いペースで飛び出してしまうことが一因とされています。満腹に近い状態や、食べてすぐに走り出したときにも起こりやすくなります。走るスピードを緩めるか、足を止めて息を整えれば、たいていはそのまま和らいでいきます。
痛みを減らす手立ては、痛みが出やすい条件を知って避けることです。走り出しのペース、食事と水分のタイミング、呼吸のリズム、体幹の安定がその中心になります。ただし、脇腹の痛みの陰に病気が隠れているケースもあり、受診が必要なサインもあります。

走り始めの脇腹の痛みは腹膜どうしの摩擦が有力な原因

走り始めの脇腹の痛みで、いちばん有力な原因とされているのが腹膜どうしの摩擦です。
腹膜は、漿膜という種類の薄い膜で、お腹の内側の壁と、臓器の表面の両方を包んでいます。壁に張りついている側を壁側腹膜、臓器を包む側を臓側腹膜といい、2枚はひと続きです。2枚のあいだの空間が腹腔(腹膜腔)で、ここにわずかな漿液がたまっているおかげで、臓器が動いても膜どうしがこすれにくくなっています。総面積は1.7〜2.0平方メートルにおよびます。壁側と臓側の境目にあたる部分は間膜と呼ばれ、血管や神経がここを通るほか、臓器を体の壁につなぎとめる役目もあります。
走るときの上下の揺れで膜どうしが擦れ、それが痛みにつながるという見方です。壁側腹膜には痛みを伝える体性神経が通っていて、刺激を受けると、局所的で片側に偏った痛みとして感じやすいのが特徴です。走り始めの痛みが脇腹の一か所に集中しやすいことと、この性質はよく合っています。
胃や肝臓、脾臓を支える靭帯も上下動で引っ張られる
腹膜と並んでよく挙がるのが、内臓を支える靭帯への負担です。胃や肝臓、脾臓などは靭帯で支えられていて、走るときの上下動でこの靭帯が引っ張られたり擦れたりすることも、有力な原因のひとつに数えられています。
横隔膜の酸欠説は2014年の研究で見直された
以前は、呼吸が浅くなって横隔膜が酸欠になることが脇腹の痛みの原因だとする説が広く知られていました。この説を揺るがしたのが、2014年のモートン教授の研究です。酸欠だけでは説明しきれないことが、この研究で示されました。実際、強度の低いウォームアップの最中や、水を飲んだあとにも痛みは起こります。
横隔膜は、胸の空間(胸腔)とお腹の空間(腹腔)の境目にある、ドームの形をした筋肉です。上には心臓と肺、下には胃や肝臓があり、呼吸の主役を務めています。この筋肉が縮むとドームが平らになり、胸腔が広がって息が入ります。力が抜けるとドームが元の高さに戻り、胸腔がせまくなって息が出ていきます。ふだんの呼吸は主に横隔膜の仕事で、運動中は肋間筋が、深呼吸では呼吸補助筋も手伝います。お腹の圧力を高めるのにも使われ、排便や嘔吐の際にも働きます。
左の脇腹の痛みには脾臓の収縮が関わるという説
左側の脇腹が痛む場合について、筑波大学の消化器内科の医師は、脾臓が関係しているという説を紹介しています。脾臓には血液をためておく働きがあり、運動を急に始めると、ためた血液で筋肉に酸素を届けようとして何度も縮み、その収縮が痛みとして出る、という説明です。
食後に走ると痛みやすい理由も、同じ解説で説明されています。食べたあとは消化器に血液が集まり、脾臓にある血液が減ります。その状態で運動を始めると、脾臓は少ない血液でなんとか筋肉に酸素を届けようとして、収縮が大きくなります。結果として腹痛が起こりやすくなるわけです。ただし脾臓説も仮説のひとつにすぎず、ほかに横隔膜のけいれんなども候補になっています。
脾臓は、お腹の左上、胃の左側のやや背中寄りで、左の肋骨のすぐ下にある臓器です。大きさは握りこぶしほどで、柔らかいスポンジのようなつくりをしています。主な仕事は2つあります。寿命が近づいた赤血球や傷んだ赤血球を壊して処分することと、リンパ球を育てて、病原体と戦う抗体がつくられる過程に関わることです。血小板や白血球をためておく働きもあります。脾臓がなくても、ほかの臓器が感染への守りを補うので、成人は生活できます。なお、脾臓説は脾臓が血液をためる働きを前提にしていますが、人の脾臓が血液の貯蔵庫として果たす役割は限られていて、犬や馬のように大量の血液を蓄えるわけではありません。
原因はひとつに絞れず、複数の要因が重なって起こる
2025年の系統的レビューは、脇腹の痛みの根本的な原因はまだ明らかではなく、研究も限られていると結論づけました。これまでに出ている仮説は、腹膜への刺激、横隔膜のまわりにある靭帯にかかるストレス、呼吸に使う筋肉のけいれん、内臓への血流が足りなくなる虚血、姿勢の問題、心理的な面まで多岐にわたります。ひとつの原因ですべてを説明することはできず、いくつかの要因が重なって起こるという見方が有力です。
虚血とは、体の組織や臓器へ流れる動脈血が減ったり途絶えたりして、酸素や栄養が足りなくなった状態のことです。局所的な貧血とも呼ばれ、全身の貧血とは区別されます。血栓などで動脈が詰まる、圧迫される、動脈硬化で狭くなるといった理由のほか、血管の収縮や拡張を司る神経の働きで起こることもあります。血の巡りが落ちると一時的に酸素が足りなくなりますが、早いうちに血流が戻れば元の状態に戻る可能性があります。虚血が指すのは「血の流れの不足」で、血液が酸素を運ぶ力の低下を指す低酸素血症とは別物です。
脱水や電解質の不足、寒さも関係しうる
研究の要約には、関わる可能性のある要因として、体の水分不足(脱水)、寒さ、体温が上がること、急に練習をきつくすること、食事制限、そしてナトリウムやカリウムなど電解質が足りないことも並んでいます。呼吸が浅いことや、電解質のバランスが崩れていることが痛みにつながっているなら、腹式呼吸を意識するのが有効とされています。
電解質とは、体の水分に溶けたときに電気を帯びるミネラルを指します。体液のバランスや、神経と筋肉の働きを保つのに関わっています。ナトリウムは細胞の外にある主要な電解質で、汗で失われると、筋肉が疲れやすくなったり、こむら返りを起こしやすくなったりするとされます。カリウムは細胞の内側にある主要な電解質で、心臓と筋肉が正常に働くために欠かせず、筋肉の収縮や心拍数の調節にも関わっています。汗にもっとも多く含まれるのはナトリウムで、塩素、カリウム、マグネシウムがそれに続きます。汗に含まれるナトリウムの濃さは、人によって大きく違います。
ランナーの約3分の2から7割が1年以内に脇腹の痛みを経験
1年のうちに一度以上、脇腹の痛みを経験するランナーや競技者は、約3分の2から7割にのぼります。2015年にスポーツ医学の専門誌に載ったレビューでは、ランナーの約7割が過去1年間に経験していました。ランニングの大会では、参加者のおよそ5人に1人が、一度のレースの最中に症状を訴えるという見込みも出ています。
年齢が上がるほど減り、走る運動はサイクリングの約10倍起こりやすい
年齢が上がるほど起こりにくくなる点は、複数の研究で一致しています。男女差があるかどうかは、研究ごとに結論が一致していません。
2002年に965人を対象に行われた調査では、ランニングや乗馬で痛みが起こる割合が、サイクリングのおよそ10倍にのぼりました。走ることと乗馬に共通するのは、体が上下に揺れる動きです。この揺れが痛みに関わっていることがうかがえます。
走り始めの脇腹の痛みを防ぐ基本はゆっくりしたペースで走り出すこと
走り始めの痛みを避ける基本は、スタートをゆっくりしたペースにして、少しずつ体を慣らしていくことです。元マラソン指導者のジェフ・ギャロウェイも、脇腹の痛みを避けたいなら、とにかくゆっくり走り出すようにと助言しています。痛みを感じたときは、そのときのペースからさらに落とすのが彼のすすめです。
あわせて、走る前のウォームアップは丁寧に行い、腹部まわりのストレッチもしておきます。
初心者は歩きと走りを交互にして距離を伸ばす
走り慣れていない人には、歩きと走りを組み合わせる慣らし方があります。息が切れかける手前まで少しだけ走り、どこも痛くないうちに歩いて呼吸を整え、また短く走る。これを繰り返しながら、少しずつ距離を伸ばしていきます。
足の回転数も見ておきたいところです。1分間の歩数(ピッチ)が160歩以下だと、脚をうまく使えず、ぴょんぴょん跳ねるようなフォームになっているおそれがあります。
ケイデンス(ピッチ)は、1分間に足が地面を踏む回数で、足さばきの速さを表します。両足の合計で数えるのが一般的です。目安は1分間に170〜180歩前後です。
食後に走るなら大量の食事で3〜4時間、少量なら1〜2時間あける

大会に出た人たちを調べた結果、食べてすぐ運動を始めた人や、量を多く食べた人ほど、痛みのリスクが高くなっていました。食べたものの種類は、痛みの起こりやすさに影響しませんでした。問題になりやすいのは、何を食べたかより、いつ、どれだけ食べたかです。
走り出すまでの待ち時間の目安は、大量の食事や満腹の状態なら3〜4時間、少量の食事なら1〜2時間です。国際スポーツ栄養学会が2017年に出した声明でも、運動する直前の食事は消化器系の負担になり、走り出してからのけいれんや不快感を招く可能性があるとしています。
走る30〜60分前なら消化しやすい単純な炭水化物を選ぶ
走る前に何か口にするなら、タイミングは30〜60分前、中身はおなかにもたれにくい単純な炭水化物にするよう、専門家は助言しています。具体的には、イングリッシュマフィンやベーグル、白いパンを焼いたトースト、味つけのないライスケーキなどです。
これとは別に、走る2〜3時間前にとる場合の炭水化物の量の目安も、走る内容ごとに示されています。
| 走る内容 | 2〜3時間前にとる炭水化物の目安 |
|---|---|
| 通常のラン | 15〜30グラム |
| きつい練習 | 30〜60グラム |
| レース | 60〜90グラム |
走る時間が60〜90分に満たない短いランであれば、走る前の食事の重要性は下がります。
食事の影響には個人差も大きく、満腹でも数時間たてば快適に走れる人もいれば、少しの軽食にも強く反応する人もいます。自分の体に合ったタイミングを探しておくことが大事です。
水は2時間前から少しずつ飲み、直前の一気飲みは避ける
水分は、走る2時間ほど前から少しずつ飲み始めます。直前にまとめて大量に飲むと、お腹がもたつく感じや、走り始めてすぐの尿意につながるので、一気飲みはやめておきましょう。
呼吸は3歩で吸って2歩で吐く奇数のリズムが紹介されている
深く、リズムよく呼吸することは、脇腹の痛みへの備えのひとつです。2025年のレビューも、リズムのある呼吸と体幹を鍛えることが、痛みを防ぐ助けになりうると示しています。
着地と呼吸のタイミングに注目した考え方もあります。英語圏では、右足が地面についた瞬間に息を吐くと、肝臓と横隔膜を結ぶ靭帯を引っ張ってしまうという理由から、吐くのは左足の着地に合わせるよう勧められています。海外のコーチングの解説は、さらに踏み込んで、多くの人が2歩、4歩、6歩と偶数の歩数ごとに息を吐くせいで、いつも同じ側の足が着地するときに吐くことになり、その側に負担が集まると説明しています。そこで「3:2」、つまり吸うのに3歩、吐くのに2歩を使うような奇数を含むリズムにすると、吐くときの足が左右交互に入れ替わるという理屈です。ただし、どちらも科学的に確立した方法ではなく、参考程度の話として受け止めておくのが妥当です。
初心者の場合は、呼吸の拍子を数えることに気を取られすぎると、かえって体がこわばり、逆効果になりやすいという指摘もあります。力を抜いて一定のリズムで息をする感覚は、会話ができるくらいの楽なペースで走るイージーランの最中に少しずつ身につけるのがよいとされます。
腹式呼吸は横隔膜を上下させる深い呼吸
腹式呼吸では、横隔膜を大きく上下させて息をします。吸うときは横隔膜が下がっておなかが膨らみ、吐くときは横隔膜が持ち上がっておなかが引っ込みます。ゆっくりと多くの酸素を取り込めて、副交感神経が優位になりリラックスしやすいとされています。一方の胸式呼吸は、肋骨のあいだの肋間筋で胸を動かす呼吸です。何も意識せずに胸式呼吸をしているあいだ、横隔膜はほとんど動きません。腹式呼吸は意識しないと難しいので、まずは横隔膜を意識して動かす練習から始めます。腹圧がかかる呼吸のため、食後すぐは避けるよう勧められています。
体幹を鍛えて上下の揺れを小さくすることもリスクを下げる
脇腹の痛みのリスクを下げる方法として挙がっているのは、基礎的な体力をつけること、おなかや体幹の筋肉を鍛えること、そして糖分の濃い飲み物を走る直前に避けることです。上半身を安定させて走ることも、そのひとつです。上下の揺れが痛みの一因とされている以上、体幹が安定して揺れが小さくなるのは理にかなっています。
体幹は、胴体を支える筋肉をまとめた呼び方で、お腹、背中、お尻、骨盤底が含まれます。そのうち真ん中の層と奥の層にある筋肉をまとめて、体幹インナーマッスルといいます。インナーマッスル自体は体の深いところにある筋肉全般を指す言葉で、腕や脚の奥の筋肉もここに入ります。体幹インナーマッスルの代表が腹横筋で、腰からお腹をぐるりと取り巻く位置にあります。骨盤底筋や横隔膜とともに腹圧を高め、背骨や骨盤を内側から支えている筋肉です。縮むとお腹が引き締まり、お腹の中の圧力が上がります。
表層の筋肉が主に体を動かす役割を担うのに対し、インナーマッスルは姿勢を保ったりバランスを取ったりする役割を担います。腹横筋を鍛えるなら、激しい腹筋運動より、息を吐きつつおなかをへこませていくドローインが向いているとされます。ランニングでは、体幹が骨盤を安定させ、上半身の力を下半身へ伝え、長い距離の後半でも姿勢を保つことに関わっています。
座りっぱなしで硬くなった腹斜筋は走る前に伸ばす
長時間座りっぱなしだと背中が丸まり、脇腹にある腹斜筋が縮んだまま固まりがちです。腹斜筋が柔らかく動けば、体幹をねじる動きもスムーズです。
腹斜筋は、表面に近い外腹斜筋と、その奥の内腹斜筋の2つからなる脇腹の筋肉です。
走る前のストレッチとして紹介されているのが、座った姿勢でタオルを使う側屈のストレッチ(サイドベンド)です。体を横へ傾け、傾けたのとは逆側の脇腹から脇の下あたりがじんわり伸びてきたら、そこで止めます。呼吸は止めずに、そのまま20〜30秒保ちます。肩や腰に痛みがある人は控えてください。
走っている途中で痛くなったらペースを落として深呼吸する
痛みが出たら、我慢して走り続けず、ペースを落とすか歩きに切り替えます。勧められているのは、痛む場所に手を当てて押さえながら深呼吸をする方法です。息は深く吸って、ゆっくり吐くことを意識します。ストレッチなら、まず痛いほうとは逆側へ上体を倒し、そのあと前かがみになる流れです。
差し込むような痛みは、ふつうなら数分たつか、運動を止めればひとりでに引いていきます。走るのをやめたのに何時間も痛みが残る場合は、医療機関に相談してください。
長引く脇腹の痛みや強い痛み、発熱を伴う痛みは医療機関へ

脇腹の痛みが、走ったことによる一時的なものだけとは限りません。左脇腹の痛みが何度も起きる人や、胸が痛む、息が苦しいといった症状も一緒に出る人は、医師に相談するのが望ましいとされています。下腹部が痛み、吐き気や発熱もあるときは、虫垂炎などが疑われるので、ためらわずに医療機関へ行ってください。腹痛が長引く、痛みが強い、熱があるといった場合も、医療機関への相談が勧められています。
尿路結石や胆石、帯状疱疹が脇腹の痛みの原因になることもある
右側の脇腹で起こる病気に、尿路結石があります。結石が尿管を下っていくときに強い痛みが出る病気で、いきなり激しく痛むうえに、血尿や吐き気が出ることもあります。胆のうに石ができる胆石では、胆のうの中の圧力が上がって痛みが出ます。脂っこいものを食べたあとに痛むのが典型的なパターンです。このほか、帯状疱疹、肋間神経痛、肉離れのように、脇腹の皮膚や神経、筋肉に起きた病気やけがが痛みのもとになることもあります。
痛む場所が左か右かだけで原因を見分けるのは難しいものです。見分ける手がかりは、一緒に出ている症状です。熱がある、尿に血が混じる、おしっこの出方が変わった、吐いた、皮膚に発疹が出たといった症状に加えて、痛みがどう移り変わるか、体を動かすと痛みが変わるかどうかも判断材料になります。急に激しく痛む、血を吐いた、便に血が混じる、顔色が悪い、意識がもうろうとしている。こうした状態のときは、夜間や休日でもすぐに受診してください。状況によっては救急車を呼びます。
走り始めの脇腹の痛みは一時的なもので、ゆっくり走り出せば防ぎやすい
走り始めに脇腹が痛くなるのは、運動関連一過性腹痛と呼ばれる一時的な症状で、基本的に体への害はありません。有力な原因は上下の揺れによる腹膜の摩擦や靭帯への負担ですが、根本の原因はまだ解明されていません。ゆっくりしたペースで走り出すこと、食後は時間をあけること、深くリズムよく呼吸すること、体幹を安定させることが、痛みを遠ざける基本です。運動をやめても数時間続く痛みや、発熱や血尿を伴う痛みは、医療機関に相談してください。
走り出しで脇腹が痛くなりやすい初心者は、歩きと走りを決まった比率で交互に入れると、ペースを抑えたまま距離を伸ばせます。比率の決め方は歩きと走りを交互にするランニング練習法(ジェフィング)の始め方にまとめています。








