ウォーカブルシティにおけるジョギングコースの整備事例は、国内外で多数報告されており、歩行者を中心としたまちづくりとスポーツ環境の整備が密接に関連しています。ウォーカブルシティとは「歩きやすい街」を意味し、自動車に頼らずに徒歩や自転車、公共交通機関で快適に移動できるように設計された都市のことです。日本では2025年6月30日時点で392都市が「ウォーカブル推進都市」として賛同しており、各地でジョギングコースを含む歩行者優先のまちづくりが進められています。
この記事では、ウォーカブルシティの基本概念から海外・国内の具体的な整備事例、ジョギングコースの設計ポイント、そして健康増進や地域活性化への効果まで、幅広く解説していきます。都市計画に関わる行政担当者やまちづくりに興味のある方、ジョギングやランニングを楽しむ市民の方々にとって、有益な情報を提供できれば幸いです。

ウォーカブルシティとは何か
ウォーカブルシティとは、直訳すると「歩きやすい街」を意味し、自動車に頼らずに徒歩や自転車、公共交通機関で快適に移動できるように設計された都市のことを指します。この概念は単に「歩きやすい」というだけでなく、「自動車がなくても住みやすい街」「居心地のよい街」といった広い意味を含んでいます。
ウォーカブルシティの起源と国際的な広がり
ウォーカブルシティのコンセプトは、車社会の国アメリカから生まれました。典型的なアメリカの都市では車が生活に必須であり、都市も車ありきのデザインに形成されてきました。その弊害として肥満を抱える人の割合が増加し、健康への環境的なアプローチとして「歩きやすいまち」「歩くのが楽しくなるまち」を求める動きが生まれたのです。
都市計画家ジェフ・スペック氏がウォーカブルシティを国際的に提唱し、都市の繁栄の要因を「歩きやすさ」に集約しました。この思想は世界各地でウォーカブルシティへの関心を高めるきっかけとなり、現在では多くの国や都市がこの概念を取り入れたまちづくりを推進しています。
日本における「WEDO」の考え方
日本では、国土交通省が「居心地が良く歩きたくなるまちなか」としてウォーカブルなまちづくりを推進しています。2019年6月26日、国土交通省による「都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」において、「WEDO」をキーワードとした方向性が打ち出されました。
WEDOとは4つの視点を表しています。W(Walkable) は「歩きたくなる」という視点で、歩行者が快適に移動できる環境を整備することを意味します。E(Eyelevel) は「まちに開かれた」という視点で、建物の1階部分が歩行者にとって魅力的な空間となることを目指しています。D(Diversity) は「多様な人の」という視点で、年齢や性別、障害の有無に関わらず誰もが利用しやすい空間づくりを推進します。O(Open) は「開かれた空間が心地いい」という視点で、公共空間を市民に開放し、居心地の良い場所を創出することを意味しています。
ウォーカブルシティがもたらす多面的な効果
より安全で気軽に歩行できる街では、様々な効果が報告されています。健康面では、大気汚染の影響や交通事故が少なく、肥満人口が少ないことが確認されています。子どもたちが外で遊ぶ時間も長くなる傾向があります。
経済面では、人々が街を歩き回るためローカルビジネスの経営状況が好調であることが確認されています。地域経済の活性化にもつながり、沿道の店舗売上が向上する事例も多数報告されています。社会面では、格差の小ささやコミュニティの活性化が報告されています。
医療費への影響も注目されており、国土交通省の調査では、1日あたりの歩数が1,500歩増えることで、年間35,000円の医療費抑制効果があると試算されています。ウォーカブルシティは、住民の健康増進と医療費削減の両面から、自治体にとって有益なまちづくり戦略といえます。
法制度の整備による後押し
2020年には「都市再生特別措置法」の改正が行われ、市町村がまちなかにおける交流・滞在空間の創出に向けた官民の取組をまちづくり計画に位置付けることができるようになりました。
また、「歩行者利便増進道路制度(通称「ほこみち」)」が2020年11月から施行され、オープンテラス等の施設が指定された道路に設置しやすくなりました。車道を減らして歩道を拡げたり、カフェやベンチを設置するなど、道路空間に歩行者のにぎわい空間を整備することが可能になっています。2023年12月時点で全国102自治体において、都市再生特別措置法に基づき、滞在快適性等向上区域(まちなかウォーカブル区域)を設定・公表しています。
海外のウォーカブルシティ整備事例
ウォーカブルシティの概念は世界各地で実践されており、それぞれの都市が独自のアプローチで歩行者優先のまちづくりを進めています。ここでは代表的な海外事例を紹介します。
アメリカ・ポートランドの先駆的な取り組み
世界一の自動車保有台数を誇る米国におけるウォーカブルシティの先駆けといえるのが、オレゴン州ポートランドです。ポートランドは1970年代に「歩くのが楽しいまち」へと大きく舵を切りました。
国の政策により全土で高速道路が建設されるなか、市民の反対運動により計画は中止となり、既存の高速道路も撤去されました。その跡地を利用して公園が作られ、高速道路建設のための予算を使って公共交通機関が整備されたのです。
ポートランドではコンパクトシティと呼ばれるまちづくりを推進しています。都市と郊外の間に「都市成長境界線」を導入することで、無秩序な郊外開発を防止し、農地や森林を保全しながら、都市機能を中心地に集約させています。「自転車の街」としても知られており、バスや電車に自転車の持ち込みが許可されています。
都心部では、1ブロック(1街区)のサイズが約60×60メートルとなっており、アメリカの都市の一般的な1ブロックの幅(100~120メートル)の約半分です。「ストアーフロント」と呼ばれる施策により、ビルの1階歩道に面した部分には必ず店舗を誘致し、歩行者が楽しく歩けるようになっています。
デンマーク・コペンハーゲンの歩行者志向都市デザイン
デンマークの首都コペンハーゲンには、ストロイエ(Strøget)という全長約1.1kmの歩行者専用通りがあります。建築家ヤン・ゲール(1936年生まれ)は、デンマーク・コペンハーゲン生まれで、デンマークの歩行者志向の都市デザインは彼の功績の一つです。歩行者や自転車のための都市計画によって、公共空間のアクティビティを生み出すことに焦点を当てています。
コペンハーゲンは自転車利用率が非常に高い都市として知られており、自転車分担率は約29%に達しています。自転車専用レーンが整備され、歩行者と自転車利用者が安全に共存できる環境が整っています。
スペイン・バルセロナのスーパーブロック
スペインのバルセロナでは「スーパーブロック」と呼ばれる取り組みが進められています。9つの街区を1つの大きな区画としてまとめ、その内部への自動車の進入を制限する仕組みです。区画内では歩行者が優先され、必要な施設が徒歩で行ける距離に配置されています。これにより、高齢者や子どもでも安全に移動でき、生活の利便性も向上しています。
バルセロナは「バス路線再編と街路の歩行者空間化を両輪で進める、世界で最もウォーカブルな都市の一つ」として評価されています。「ウォーカブル政策を進めるにあたり、市民に車に乗ってくれるなとお願いするからには、代替の交通手段がキチンと確保されていないと説得力に欠ける。まず最初にやったことは公共交通の質を確保すること」という理念が体現されています。
研究によると、バルセロナ等の街において、「歩行者中心の街路に立地する小売店や飲食店の売り上げは、非歩行者空間に立地するそれらよりも高い」ことが示されています。
フランス・パリの「15分都市」構想
パリでは、学校や職場、医療施設、公園、レストランなどに徒歩や自転車で15分以内にアクセスできる「15分都市」を目指し、ウォーカブルな取り組みが行われています。2020年のロックダウンで車の交通がないことを活用し、複数の場所を車両空間から歩行者空間へと迅速に変更しました。この経験を活かし、恒久的な歩行者空間の拡大が進められています。
アメリカ・ニューヨークのタイムズ・スクエア歩行者天国
ニューヨークでは、社会実験を経て2009年にタイムズ・スクエアが歩行者天国となりました。ストリート自体が新たな観光地として賑わい、周辺の治安が良くなっただけでなく、沿道の店舗の売り上げも数倍になりました。
ニューヨーク市交通局(NYC DOT)では、歩行者のニーズに基づいて道路を分類するためのデータ駆動型のフレームワークを開発し、市内の歩道を5つのカテゴリに分類しています。分類した街路に応じた設計ガイドラインも公表しており、科学的なアプローチでウォーカブルシティを推進しています。
日本のウォーカブルシティ整備事例
日本においても、各地でウォーカブルなまちづくりが進められています。先進的な取り組みを行っている都市の事例を紹介します。
兵庫県姫路市の先進的な取り組み
姫路市はウォーカブルなまちづくりの先進都市として注目されています。「居心地が良く歩きたくなるまちなか」を目指し、2021年3月末に姫路市ウォーカブル推進計画を策定しました。中心市街地において歩行者優先のまちなかを目指し、公共空間利活用の仕組みやリノベーションまちづくりなどの取り組みを進めています。
姫路市は「公共空間利活用の仕組みづくり」や「全国初となるほこみち制度の活用」で注目を集めています。2023年度には「ウォーカブル促進プログラム」を立ち上げ、ウォーカブルなまちづくりに関するワンストップ窓口を創設しました。市の産業振興課が窓口となり、道路を活用した民間の幅広い取り組みを支援しています。
本プログラムでは、一個人から企業まで幅広く道路空間を使ったマルシェの開催や、お店の前の道路にテラス席を設置するなどの活動が実現しやすくなります。産業振興課・都市計画課・道路管理者・警察などで構成される「姫路市公共空間活用会議」が作られ、独自に定めた審査基準をもとに企画を審査しています。
北海道札幌市のビジョン策定
札幌市では、2025年7月29日に「サッポロウォーカブルシンポジウム2025」が開催され、「(仮称)Well-Moving City SAPPORO 2045ビジョン」の説明や、市内各地でまちづくりに取り組む団体の発表やトークセッションが行われました。
真駒内駅前地区では、将来的な再整備に向けて道路空間や広場空間を活用した「青空市」「憩いの場」「ストリートパフォーマンス」などの取り組みが行われています。冬季の厳しい気候条件を考慮しながら、四季を通じて歩きたくなるまちづくりを目指しています。
島根県出雲市の参道整備
島根県出雲市の神門通りは、出雲大社への参道として整備された約700mのエリアです。60年に一度の大遷宮に合わせ、道路の拡幅や石畳舗装の導入、沿道の和風景観づくりなどが行われました。歴史的な景観と調和したウォーカブルな空間が創出され、観光客と地元住民の両方が楽しめる参道となっています。
東京都目黒区自由が丘の官民連携
東京都目黒区の自由が丘では、歩行者優先ゾーンの設定や道路のバリアフリー整備などの社会実験を実施し、官民連携のもとで継続的な沿道まちづくりを進めてきました。歩行環境を改善し、にぎわいを創出することで、商業地としての魅力向上にもつながっています。
栃木県宇都宮市のLRT開業
宇都宮市ではLRT(次世代型路面電車)が開業し、駅前空間がよくなっています。公共交通の充実とまちの賑わいを両輪で進めることで、ウォーカブルなまちづくりを実現しつつあります。LRTの導入により、自動車に依存しない移動手段が確保され、歩行者にとっても安全で快適な都市環境が整備されています。
大阪市御堂筋の歩行者空間化
大阪のミナミエリアでは、御堂筋、なんば駅前の2つの歩行者空間活用の社会実験が実施されました。道路空間を活用した「居心地が良く歩きたくなる(ウォーカブル)」まちなかづくりの取り組みが推進されています。ビジネス街と商業エリアが混在する御堂筋において、歩行者優先の空間づくりが進められています。
パークレットの導入事例
パークレットとは、アメリカのサンフランシスコが発祥と言われる、車道の一部を転用して作られた歩行者のための空間です。日本では2016年に神戸市三宮で、三宮周辺地区の「再整備基本構想」により初めて設置されました。
国内のパークレット事例として、宮益坂歩行者中心の道路空間(東京都渋谷区)、御堂筋パークレット(大阪府大阪市)、ハニカムスクエア(静岡県静岡市)、清水銀座パークレット(静岡県静岡市)、KOBE Parklet(兵庫県神戸市三宮中央通り)などがあります。これらの事例では、ベンチや植栽を配置することで、歩行者が休憩できる憩いの空間を創出しています。
ジョギングコースの整備事例
ウォーカブルシティの概念は歩行者だけでなく、ジョギングやランニングを楽しむ市民にとっても重要です。ここでは、国内の代表的なジョギングコース整備事例を紹介します。
東京都・皇居ランニングコース
東京の中心にある皇居は、日本で最も有名なランニングコースと言っても過言ではありません。信号がなく、1周約5kmという絶妙な距離は、初心者から上級者まで幅広いランナーに愛されています。2011年に「走って気持ちがいい」道の第1号として観光庁に認定されました。
皇居ランの人気の理由として、まず信号がないことが挙げられます。皇居周辺のコースは1周約5kmですが、信号がないためノンストップでランニングができます。次に抜群のアクセスがあり、皇居は東京都の中心にあるため、「東京」「大手町」「有楽町」「日比谷」「九段下」「神保町」「二重橋」「竹橋」「桜田門」など、多くの駅を利用できます。
また、皇居周辺にはランニングステーション(ランステ)が充実しています。ランニングステーションとは、着替えるスペースやロッカー、シャワーなどが完備されているランナーのための施設です。さらに、桜、新緑、紅葉、イルミネーションなど、皇居は四季折々の自然が楽しめるため、ランニングだけでなく観光気分も味わえます。
安全性も皇居ランの魅力です。皇居の周辺には交番が多くあり、皇居の警備にあたる警察官が常時巡回しているため、女性が安心して走れる環境が整っています。コースは大きく3つに分割でき、桜田門から竹橋までのフラットコース、竹橋から千鳥ヶ淵公園までの登り坂コース、千鳥ヶ淵公園から桜田門までの下り坂コースとなっています。周回は反時計周りがルールとなっており、多い日には1万人を越える人が走っています。
東京都・駒沢オリンピック公園
駒沢オリンピック公園では、一周約2.1kmのランニングコースが整備されています。アップダウンがなく初心者にもおすすめです。公園内にはコースが設定されていて、路面の距離表示や看板が設置されており、レベルに合わせて楽しめます。
コースでは、黄色のレーンがジョギング専用レーン、左側の青いレーンが自転車専用レーン、そして右側が歩行者レーンと分けられています。このようなレーン分けにより、利用者間の衝突を防ぎ、安全にそれぞれの活動を楽しむことができます。
東京都・代々木公園
代々木公園は、自然豊かな環境でリラックスしながら走れるランニングスポットです。公園内には1周約1.2kmのランニングコースが整備されており、特に初心者には走りやすいコースとして人気があります。都心にいながら緑豊かな環境でジョギングを楽しめる貴重な空間となっています。
東京都・豊洲ぐるり公園
豊洲ぐるり公園は都内屈指のランニングスポットとして名高いです。豊洲埠頭先端から東電堀まで、豊洲市場の周りをぐるりと囲うように園路が整備されています。ランニングコースは4.8kmで400mごとに距離表示があります。コースはフラットで信号がなく、道幅が広いのでビギナーランナーも走りやすくなっています。東京湾の景色を眺めながら走れる開放的な環境が魅力です。
荒川河川敷ランニングコース
荒川河川敷のランニングコースは約6キロで、トイレ・自販機があり、東京メトロ南北線赤羽岩淵駅から徒歩5・6分ほどでスタート地点に到着できます。初心者ランナーは往復で約6キロを走ることができ、慣れてきたら距離を伸ばせます。月例赤羽マラソンは毎月第4日曜日に開催されています。
荒川河川敷の千住から岩淵水門区間は、荒川沿いのフラットな遊歩道を延々と走り続けることができます。荒川河川敷はランナーに人気があり、右岸が都会側、左岸が田舎側となっており、好みに応じてコースを選ぶことができます。
多摩川河川敷ランニングコース
多摩川河川敷コースは都心近郊で最もメジャーな河川敷ランニングコースの一つです。都心からアクセスがしやすく、河川敷がコースなので信号や車両の心配が無く走りやすいことで人気です。自然豊かで季節の変化を楽しめ、10キロ未満のお手軽コースから53km走破する超ロングコースもあります。
多摩川大橋から丸子橋を折り返すコースは、比較的整備された土のコースで信号が無いのでノンストップで周回できます。二子玉川駅から多摩川駅の間の多摩川遊歩道は往復11.4kmの周回コースで、自転車やランナー、歩行者がほとんどいないため、静かな環境で豊かな自然を味わうことができます。
山口県周南市の整備計画
山口県周南市では、体育施設のリニューアル工事として、陸上競技場、野球場の外周をランニングコースとして整備する計画があります。2種類のカラー舗装で識別し、距離がわかるようにポイントを付けるとともに、コース沿いにフットライトを設置し、夜間でも安全に利用できるようにする予定です。工期は2026年2月から2026年7月下旬までとなっています。夜間照明の設置は、仕事帰りにジョギングを楽しみたい市民にとって大きなメリットとなります。
ジョギングコース整備における重要なポイント
安全で快適なジョギングコースを整備するためには、いくつかの重要なポイントがあります。
コースの種類と特徴
ランニングコースは大きく分けて、周回型とUターン型があります。周回型コースはグルグルと同じ場所を走るコースで、走る距離とペース配分が分かりやすく、整備された安全なコースが多いです。陸上競技場などの公共運動施設や公園などで設定しやすいコースであり、距離表示も設置しやすいというメリットがあります。
安全面での配慮事項
公園は車やバイクの侵入がなく安全性が高いです。トイレや自動販売機が設置されている公園であれば、休憩も取りやすくなります。路面がアスファルトよりも柔らかい土や芝生であることも多く、足への負担が少なく初心者におすすめです。コース設計においては、急なカーブや視界の悪い場所を避けることも重要です。
ランナーと歩行者の共存
ランニングブームにより自治体等がランニングコースを設けて公表しているケースがありますが、コース設定時においても歩行者との共存が考慮されるべきです。ランナーが歩行者とすれ違う際には、歩行者の中に交通弱者が含まれている可能性を念頭においた行動をとる必要があります。身体一つ分以上の距離を空けてすれ違う、すれ違う少し前から速度を落とすといった対応が求められます。
専用レーンの設計による安全確保
駒沢公園ランニングコースのように、ジョギング専用レーン、自転車専用レーン、歩行者レーンを分けることで、利用者間の衝突を防ぎ、安全性を高めることができます。ただし、ジョギング専用レーンは狭いことが多いので、集団走を行うときは少人数で行う必要があります。レーンの色分けや路面標示により、利用者が直感的にルールを理解できる設計が効果的です。
夜間の安全対策の重要性
河川敷は周囲に店舗が少なく、街灯がないことから子供や女性の夜間ランニングにはおすすめしにくいです。ランニングをする時間帯によっては、事故に合わないように車からの視認性を高める工夫も必要です。公共運動施設では照明ライトが充実しており、夜間走るのにも適しています。
周南市の事例のように、コース沿いにフットライトを設置し、夜間でも安全に利用できるようにする整備が重要です。照明設備の設置は初期投資がかかりますが、利用者の安全確保と利用時間の拡大につながります。
ジョギング・ランニングがもたらす健康効果
ウォーカブルシティとジョギングコースの整備は、市民の健康増進に大きく貢献します。ここでは、ジョギング・ランニングの健康効果について解説します。
ジョギングとランニングの違い
国立健康・栄養研究所によれば、時速6.4km以上をランニング、それ以下をジョギングと区分しています。健康やダイエットを目的としている場合はジョギングをおこなった方が効果的です。ランニングは負担が大きくなると有酸素運動としての効果は得にくくなってしまうためです。自分の体力や目的に合わせて、適切な強度を選ぶことが重要です。
身体的な健康効果
ジョギングは心肺機能を高め、走り方によっては筋力や柔軟性を高めることができます。肥満や生活習慣病の予防にも効果的です。
ランニングなどの運動をすると、LDL(悪玉コレステロール)を血液から肝臓に移動させ、排泄する働きのある酵素が刺激されます。また、ジョギングは善玉コレステロール(HDL)の増加も促します。2013年4月の『Blood Pressure』誌で発表された論文では、コレステロール値が改善すると、血栓、脳卒中、高血圧、心臓病のリスクが減少することが明らかになっています。
ランニングは、コレステロール以外にも、血糖値や中性脂肪、血圧、体重など、メタボリックシンドロームを改善する効果があります。
脂肪燃焼効果のメカニズム
有酸素運動でもあるランニングは脂肪分を燃料として行うため、血中の悪玉コレステロールや中性脂肪などを含む体脂肪の減少が期待できます。エネルギー源として体脂肪を利用するようになるのは有酸素運動を開始してから約20分程度経った時からと考えられています。そのため、ある程度の時間を継続して運動することが、脂肪燃焼には効果的です。
精神的な健康効果
化学的な面からいうと、エンドルフィンやセロトニン、ドーパミンなどの幸福感に関与する物質の値の上昇が挙げられます。つまりランニングを続けることで、より大きな幸福感が生み出されます。
適度な運動をすると、セロトニンという脳内物質の分泌が活発になり、睡眠を誘うメラトニンというホルモンの生成をサポートします。さらに、セロトニンは自律神経も整えてくれます。ストレス解消やメンタルヘルスの改善にも、ジョギングは効果的です。
ジョギング・ランニングの普及状況
調査によれば、年1回以上ジョギングやランニングをする20歳以上の人は、2020年で1055万人、実施率は10.2%で調査開始以来最高でした。健康意識の高まりとともに、ジョギング人口は増加傾向にあり、自治体によるコース整備の重要性も高まっています。
マラソン大会と地域活性化
ジョギングコースの整備は、マラソン大会の開催を通じた地域活性化にもつながります。
マラソン大会の経済効果
2025年3月2日に開催された東京マラソン2025の経済波及効果は787億2600万円で、東京都内での経済波及効果は562億3200万円となりました。2024年の東京マラソン2024では526億円でしたが、2025年は外国籍ランナーの増加(1万3500人から1万7100人へ)により大幅に増加しました。東京マラソン2025の経済波及効果は、事業総予算の13.5倍となり、1日のスポーツイベントとしては突出した結果となりました。税収効果は東京に65億円、全国でみると95億円となりました。
兵庫県立大学地域経済指標研究会の発表によると、第10回神戸マラソン大会(2023年開催)では兵庫県内で79億円もの経済波及効果がありました。大規模なマラソン大会は、地域経済に大きなインパクトをもたらすことがわかります。
マラソン大会がもたらす多面的な効果
大会には多くの参加者や観客が訪れ、これにより地域のホテル、飲食店、小売業などが活気付き、地元の事業者が収益を上げ、地域全体に経済的波及効果が生まれます。市民マラソン大会を開催することが地域活性化に対して経済的効果、社会的効果の両面から効果があります。他地域から参加者を集客することにより、滞在中の宿泊や観光、外食により経済効果が期待できます。
地方のマラソン大会事例
果樹王国ひがしねさくらんぼマラソン大会は2002年から山形県東根市で開催されており、さくらんぼ東根温泉のPRと山形新幹線開業10周年を記念とした誘客事業として企画されました。東根市を全国に発信し、地元経済の活性化と地域の枠組みを超えた交流を深めることを目的としています。地域の特産品や観光資源と組み合わせることで、マラソン大会の魅力を高めています。
成功するマラソン大会のポイント
経済的効果は滞在してもらうことが鍵を握りますが、現状では日帰り参加が多く大きな経済効果を生める大会は限られます。しかし、地域資源を活用したイベントやツアーを実施することで、他地域から訪れる参加者が滞在する仕組みを作ることができます。大会数が増え定員割れなども散見される中で、他の大会とは違うコンセプトを打ち出し、差別化を図ることが重要です。
スポーツコミッションによる地域活性化
ジョギングコースの整備やマラソン大会の開催を支える組織として、地域スポーツコミッションが注目されています。
地域スポーツコミッションとは
地域スポーツコミッションとは地方公共団体、スポーツ団体、民間企業等が一体となり、スポーツによるまちづくり・地域活性化を推進していく組織のことです。長期にわたってスポーツと地域資源を掛け合せたまちづくり・地域活性化のための持続可能な活動をしています。行政だけでなく、民間企業やスポーツ団体が連携することで、より効果的な取り組みが可能になります。
茨城県笠間市の成功事例
笠間市は「スケートボードのまち」としてアーバンスポーツを打ち出し、県営笠間芸術の森公園の未利用区域を活用して、国内最大級のスケートパーク「ムラサキパークかさま」をオープンしました。年間約1万6,000人が来場し、その大半が若年層で、来場者の約9割は市外からの人です。笠間市ではパークのオープンと同時期に、スポーツコミッションを設立し、パークの有効活用に成功しています。
山梨県韮崎市のトレイルランニング活用
2022年に設立した「韮崎市スポーツコミッション」がうまく機能し、トレイルランニングによる地方創生を実現しています。冬場にスポーツイベントがなく地域の賑わいが減衰するという課題に対し、南アルプスの豊富な山岳資源を活かしたトレイルランニング大会を冬場に開催しています。地域の自然環境を活かしたスポーツイベントは、新たな観光資源としても期待されています。
秋田県のスポーツ立県宣言
秋田県はスポーツを地域発展のシンボルとし、2009年に「スポーツ立県あきた」を宣言し、2012年度には知事部局に「観光文化スポーツ部」を創設しました。地域のスポーツ環境の整備など様々な取り組みを実施してきました。行政がスポーツを重要施策として位置づけることで、長期的かつ継続的な取り組みが可能になっています。
その他の地域事例
秋田県鹿角市では「スキーと駅伝で交流人口拡大に成功」、香川県丸亀市では「丸亀国際ハーフマラソンを活かした協働まちづくり」、栃木県宇都宮市では「サッカーと連動した経済活性」などの事例があります。各地域が自らの強みを活かしたスポーツ振興策を展開しており、ジョギングコースの整備もその一環として位置づけられています。
自治体の健康づくり施策
ウォーカブルシティとジョギングコースの整備は、自治体の健康づくり施策とも密接に関連しています。
健康づくりアプリの活用事例
長崎県では、県民が主体的に気軽に楽しく健康づくりに取り組めるよう、ウォーキング等日々の生活習慣でポイントを獲得して、地域のお店でのサービス利用や県産品等の抽選会に参加できる「歩こーで!」(ながさき健康づくりアプリ)を2023年2月1日にリリースしました。毎日の歩数、消費カロリー、獲得ポイントを表示し、全体・年代・地域・グループ・企業別の個人ランキングを表示する機能があります。
熊本県では「くまもとスマートライフプロジェクト2025」の一環として、ウォーキングキャンペーンを実施しています。個人及び団体での参加が可能で、期間中に条件を達成した方の中から抽選でギフトカード等をプレゼントしています。「くまもとスマートライフアプリ(歩数計アプリ)」は誰もが簡単に、楽しく、気軽に取り組める健康づくりをテーマにしたスマートフォン対応の歩数計アプリです。
科学的根拠に基づく歩数目標
東京都健康長寿医療センター研究所の青柳幸利博士は、群馬県中之条町での20年にわたる研究を経て、多くの病気を予防できるのは1日当たりの平均歩数が8,000歩で、その中に速歩きを20分以上行うことが効果的だと導き出しました。
60代以上の女性には「1日7000歩/15分速歩き」がおすすめとされ、この「黄金律」を守ってウォーキングすることで、認知症や心疾患の他、骨粗しょう症・乳がんなど女性に多い病気や症状を予防できるといわれています。
ウォーキングの健康効果
ウォーキングは有酸素運動であり、長く続ければ続けるほど、脂肪をエネルギーとして燃焼しやすくなります。脂肪が減少することにより肥満も解消され、代謝がよくなることで血中脂質や血糖値、血圧の状態の改善にも有効です。
ウォーキングには快感ホルモンの分泌を促し、精神的な緊張や抑うつなどのマイナスの感情は低下し、活力が上昇するという感情への効果も報告されています。脳の血行もよくなり、脳の活性化が促されることで認知症のリスクを低減させるという報告もあります。
ウォーカブルシティとジョギングコース整備の今後
ウォーカブルシティの概念とジョギングコースの整備は、今後さらに発展していくことが期待されています。
両者の密接な関係性
ウォーカブルシティの概念は、歩行者を中心としたまちづくりであり、その延長線上にジョギングコースの整備があります。歩きやすい街は走りやすい街でもあり、両者は密接に関連しています。「公共交通の充実」と「まちの賑わい」がウォーカブルシティ実現のポイントであり、この2つが互いに作用することで、「公共交通によるアクセスの確保→回流人口の増加→まちの賑わいの創出→更なる集客」という好循環が生まれます。
今後の課題と方向性
空間整備に関しては日本は社会実験を通して機運を醸成している段階であり、各地の取り組みを積み上げて日本流の発展をしていく方向性が示されています。これからは、単に歩道を整備するだけでなく、地域の特色を活かした魅力的な空間をいかに創出するかが問われます。
その実現には、住民や企業、地権者など多様な主体が連携し、街を共に育てていく「エリアマネジメント」の取り組みが欠かせません。行政だけでなく、民間企業や市民団体との協働が、持続可能なまちづくりの鍵となります。
まとめ
ウォーカブルシティの実現とジョギングコースの整備は、健康増進、地域経済の活性化、環境負荷の低減など、多面的な効果をもたらします。海外の先進事例に学びながら、日本の各都市が地域特性に応じた取り組みを進めることが重要です。
また、スポーツを通じた地域活性化、自治体の健康づくり施策との連携により、持続可能なまちづくりが可能となります。ウォーカブルなまちづくりは、単なる都市計画の手法ではなく、住民の生活の質を向上させ、地域の魅力を高める総合的なまちづくり戦略として位置づけられます。
今後も、国土交通省のウォーカブルポータルサイトや各自治体の取り組み事例を参考にしながら、居心地が良く歩きたくなる、そして走りたくなるまちづくりを推進していくことが期待されます。









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