みなとアクルスは、名古屋市港区に位置する環境省選定の脱炭素先行地域であり、運河沿いに整備された美しいジョギングルートを備えた次世代型のスマートシティです。東邦ガスの工場跡地約33ヘクタールを再開発したこのエリアでは、最先端のエネルギーマネジメントシステムと、歩行者・ランナーに配慮した都市設計が融合しています。脱炭素社会の実現を目指しながら、市民の健康増進にも寄与する「ウェルネス環境」が整備されており、名古屋港エリアの新たなランニングスポットとして注目を集めています。
この記事では、みなとアクルスが脱炭素先行地域として選ばれた理由や、エリア内外に広がるジョギングルートの特徴、さらには周辺のスポーツ施設との連携について詳しく解説します。名古屋でランニングを楽しみたい方、環境に配慮した新しい都市のかたちに興味がある方にとって、参考となる情報をお届けします。

みなとアクルスとは
みなとアクルスとは、名古屋市港区の中川運河東岸に誕生した大規模再開発エリアのことです。「AQULS」という名称は、まちづくりの3つのキーワードである「AQUA(水)」「LINK(つながり)」「SMART(賢さ・先進性)」を組み合わせた造語であり、日本語の古語「あくる(明くる)」、つまり「次の、未来の」という意味も込められています。
この地は1940年から1998年までの約60年間、東邦ガスの港明工場として都市ガスの製造を担い、中部圏の産業発展を支えてきました。工場の操業停止後、約33ヘクタールという広大な敷地は、次世代の都市モデルを構築するためのプロジェクト用地として位置づけられました。これはナゴヤドーム約6個分に相当する規模です。
名古屋駅から南へ約7.5キロメートルという立地は、都心へのアクセスと港湾エリアの開放感を兼ね備えています。地下鉄名港線の「港区役所駅」および「東海通駅」に近接し、名古屋高速道路のインターチェンジも利用可能であることから、広域からの集客と居住に適した交通結節点となっています。
開発の核心となる理念は、過去の産業遺産を否定するのではなく、その記憶を継承しながら次世代の豊かさや快適さを実現することにあります。西側を流れる中川運河とその支流である港北運河という水辺空間を都市のオアシスとして再生させ、商業・スポーツ・居住機能の集積によって人と地域をつなぎ、CEMS(コミュニティ・エネルギー・マネジメント・システム)によるエネルギーの一括管理によって低炭素で強靭な都市基盤を構築するという、総合的なまちづくりが展開されています。
脱炭素先行地域に選ばれた理由と背景
みなとアクルスは、環境省が選定する「脱炭素先行地域」の第1回選定地域の一つです。脱炭素先行地域とは、2050年のカーボンニュートラル実現を見据え、2030年度までに民生部門(家庭や業務など)の電力消費に伴うCO2排出を実質ゼロにすることを目指すモデル地域を指します。
名古屋市は大都市の中でも自動車利用率が高い地域特性を持っており、運輸部門由来のCO2排出量が多いことが長年の課題でした。みなとアクルスの脱炭素モデルが評価された点は、エネルギー供給の脱炭素化だけでなく、都市構造そのものを変革することで人々の行動変容を促すアプローチにあります。
具体的には、公共交通機関への乗り換え促進、燃料電池自動車(FCV)や電気自動車(EV)のカーシェアリング導入、そして「歩きたくなるまちづくり」の推進が挙げられます。ハードウェアとしてのエネルギーインフラ整備と、ソフトウェアとしてのライフスタイル変革の両面から脱炭素化にアプローチしている点が、環境省による選定の決定打となりました。
CEMSによるエネルギーマネジメントの仕組み
CEMS(Community Energy Management System)とは、エリア内のエネルギー需要と供給をリアルタイムで監視し、AI等の技術を用いて最適制御を行う「まちの頭脳」のことです。みなとアクルスの脱炭素システムの核となる技術であり、単なる省エネ機器の導入を超えた高度なシステムといえます。
需要予測と供給制御
CEMSは気象予報や過去の膨大なデータに基づき、翌日のエリア全体の電力・熱需要を予測します。この予測に基づいてエネルギーセンター内の発電設備や蓄電池の運転計画を策定し、CO2排出量が最小かつ経済効率が最大となるポイントを自動的に導き出します。実際の需要が予測と乖離した場合には、リアルタイムで計画を修正し、安定供給を維持する機能も備えています。
デマンドレスポンスによる市民参加
システムによる自動制御だけでなく、住民やテナントの協力も組み込まれています。「デマンドレスポンス」とは、電力需給が逼迫した際にCEMSからスマートフォンや施設内のサイネージを通じて省エネ要請が発信される仕組みです。照明の減光や空調設定の変更などに協力した人には、まちで使用可能なポイントが付与されるなど、楽しみながら脱炭素に貢献できるインセンティブ設計がなされています。
エネルギーセンターの先進設備
まちの中央に位置するエネルギーセンターは、CEMSの指令を受けて実際にエネルギーを製造・供給する心臓部です。都市ガスを燃料とするガスコージェネレーションシステム(CGS)では、1,000キロワットの発電機2台を稼働させ、電力を供給すると同時に発電時に発生する高温の排熱を回収して冷暖房や給湯に利用しています。
さらに特筆すべきは、運河水熱利用という地域資源の活用です。エリア内を流れる運河の水を空調の熱源として活用しており、水温が気温に比べて夏は冷たく冬は温かいという特性を利用することで、高い効率で冷温水を製造しています。これは「AQUA」を「SMART」に活用する典型例といえます。
大型のNAS電池も導入されており、夜間の電力需要が少ない時間帯に充電し、昼間の需要ピーク時に放電することで電力負荷の平準化(ピークカット)を実現しています。これにより契約電力の低減とCO2削減を両立させています。
水素エネルギー社会に向けた取り組み
みなとアクルスは次世代エネルギーである「水素」の社会実装に向けた実験場としての役割も担っています。都市部では再生可能エネルギーの設置スペースに限りがあるため、エリア内で水素を製造しエネルギー循環に組み込む計画が進められています。
エリア内には「みなとアクルス・エコステーション」が設置され、FCV(燃料電池自動車)への水素供給を行っています。また、第II期開発以降の集合住宅全戸には家庭用燃料電池(エネファーム)が導入され、各家庭で発電するとともに余剰電力をエリア全体で融通し合う「エネルギーの地産地消」が計画されています。
水素混焼・専焼技術についても、水素を燃料として利用できるボイラーやCGSの導入が計画されており、熱電併給を行いながらCO2排出を極限まで削減することを目指しています。
災害に強いまちづくり
みなとアクルスのエネルギーシステムは、平時の効率性だけでなく有事の強靭性も重視して設計されています。大規模災害時にも「止まらない」ことを前提とした防災レジリエンスが確保されています。
大規模地震などで系統電力(電力会社からの送電)が遮断された場合でも、耐震性の高い中圧ガス導管から供給される都市ガスを用いてCGSを自立起動させることが可能です。これは「ブラックアウトスタート仕様」と呼ばれ、災害時でもエリア内の重要施設や住宅に電気と熱を供給し続けることができます。
冷却水についても多重化が図られています。通常は水道水が用いられますが、断水時に備えて運河水や地下水(井水)を冷却水として利用できるバックアップ系統が構築されています。水と電気が寸断された状況下でも、ガスさえ供給されればエネルギーセンターは稼働し続けることができるのです。
災害時には、エリア内だけでなく隣接する港区役所や港防災センターにも自営線を通じて非常用電力を供給する協定が結ばれています。津波避難ビルとして周辺住民約9,000人の受け入れを想定しており、地域全体の防災力向上に寄与しています。
ジョギング・ウォーキング環境の魅力
脱炭素社会の実現には、エネルギーシステムの変革だけでなく人々のライフスタイルの変容が不可欠です。みなとアクルスでは、自動車に依存せず自らの足で歩き走ることを楽しみとする「ウェルネス」な生活環境の提供に力を入れています。
歩車分離による安全な空間設計
開発エリア全体において「歩車分離」の原則が徹底されています。歩行者専用道路は幅員が広く確保され、車道との間には植栽帯が設けられているため、ランナーやウォーキングを楽しむ人々は自動車の往来を気にすることなく安全に活動できます。エリア内は無電柱化が推進されており、視界を遮るものがない広い空と統一感のある街並みが、運動する人々の心理的な快適性を高めています。
オーバルウォークの特徴
オーバルウォークは、まちの中心にある約8,000平方メートルの「みどりの大広場」を周回する遊歩道です。芝生広場の開放感を感じながら、ららぽーとやスポーツ施設、住宅エリアをつなぐ動線として機能しています。路面は足への衝撃を和らげる素材や舗装パターンが工夫されており、ジョギングだけでなく高齢者の散歩や子供の遊び場としても適しています。初心者から日常的なランナーまで幅広い層が楽しめるルートとなっています。
キャナルウォークの魅力
キャナルウォークは、港北運河の東岸に整備された親水プロムナードです。かつて工場の敷地であった場所が、水辺の潤いを感じられる散策路へと生まれ変わりました。春には桜やツツジが咲き誇り、四季折々の自然を感じながらランニングができます。
夜間には落ち着いた色温度のLED照明が水面と植栽を照らし出し、安全かつ幻想的なナイトランの環境を提供しています。舗装には近隣の歴史的な「平和橋」をモチーフにしたデザインが採用されており、地域の記憶を足元から伝える工夫がされています。
中川運河プロムナードとの広域連携
みなとアクルスのジョギング環境は、単体で完結するものではなく、名古屋市が進める「中川運河再生計画」という壮大な都市戦略の一部を成しています。
水辺の回廊としての可能性
名古屋駅南の「ささしまライブ」から名古屋港まで続く全長約8.4キロメートルの中川運河沿いには、かつて倉庫や工場が密集し一般市民が水辺に近づくことは困難でした。再生計画により、運河沿いに連続したプロムナード(遊歩道)を整備し、ジョギングやサイクリングを楽しめる空間へと転換する取り組みが進んでいます。
みなとアクルスは、中川運河の南北軸と荒子川公園方面へ抜ける東西の支流が交わる結節点に位置しています。これらのプロムナードが完全に接続されれば、フルマラソンのトレーニングにも対応可能な長距離コースの拠点となり、都市型ランニングの聖地となるポテンシャルを秘めています。
エンジョイウォークみなとのモデルコース
地域のウォーキングイベント「エンジョイウォークみなと」では、みなとアクルス周辺の魅力を凝縮したルートが設定されています。「秋の名港 水辺の遊歩道コース」は約6キロメートル、ウォーキングで1時間30分程度の行程です。
スタート地点は名古屋港ポートビルの北側に位置する「ふじの広場」で、港の潮風を感じながらウォーミングアップを行えます。その後、古き良き港町の風情が残る築地エリアを通過し、中川運河岸へと進みます。運河沿いに整備された平坦で直線の多い道はペースを維持しやすく、信号待ちのストレスも少ないのが特徴です。
いろは橋や中川橋といった運河にかかる橋を渡る際には緩やかなアップダウンがあり、適度な負荷がかかります。橋の上からは運河の水面と再開発エリアのスカイライン、そして遠くに広がる名古屋港の景色を一望できるパノラマビューが楽しめます。産業の歴史、水辺の自然、そして未来的な都市景観がシームレスにつながるコースとなっています。
邦和みなとスポーツ&カルチャーとの連携
エリア内には東邦不動産が運営する複合スポーツ施設「邦和みなと スポーツ&カルチャー」が立地しており、ジョギング環境をハード面から強力にサポートしています。
総合的なフィットネス拠点
同施設には国際規格(60メートル×30メートル)の屋内スケートリンクがあり、フィギュアスケートのトップアスリートを輩出してきたことで知られています。25メートルプール、テニスコート、武道場、ダンススタジオ、ボルダリングジムなど多彩な設備が完備されており、幅広いスポーツ活動に対応しています。
ランナーへの充実したサポート
ランニングクラブなどのプログラムが提供されており、孤独になりがちなジョギングをコミュニティ活動として楽しむことができます。温浴施設やサウナも備えているため、運河沿いを走った後に汗を流し疲労回復を図る「ラン&スパ」という利用スタイルが可能です。単に走る場所があるだけでなく、リカバリーまで含めたウェルネス環境が整っている点が大きな魅力といえます。
2025年3月には「eスポーツ専用ルーム」が開設され、フィジカルなスポーツだけでなくデジタル世代の新しいスポーツ文化も取り入れた施設へと進化しました。
ビオトープと生物多様性への取り組み
「AQUA」のコンセプトは、人間にとっての快適さだけでなく地域の自然環境や生態系の回復も意図しています。みなとアクルスでは、高度に都市化された環境の中に意図的に「野生」を呼び戻す取り組みが行われています。
みどりの大広場のビオトープ
ららぽーと名古屋みなとアクルスの敷地内にある「みどりの大広場」には、庄内川流域の自然環境をモデルにしたビオトープが整備されています。単なる造園空間ではなく、地域の生物多様性を保全するためのサンクチュアリとして機能しています。
調査によると、メダカ、ニホンヤモリ、シオカラトンボ、アゲハチョウ、オンブバッタなど、かつてこの地域の水辺や草むらに当たり前にいた生き物たちが定着していることが確認されています。都会では姿を消しつつある在来種が観察できることは、環境の質の高さを示しています。
四季を彩る植栽計画
ビオトープや周辺の植栽には、地域の気候風土に適した植物が選定されています。冬に赤い実をつける「ソヨゴ」や「ヤマモモ」は野鳥の餌となり、春に花を咲かせる「シャリンバイ」や「ヒサカキ」は昆虫を誘引します。植物と動物の食物連鎖や相互作用を考慮した植栽管理が行われており、ビオトープはキャナルウォークの植栽帯や街路樹と緑の回廊(コリドー)としてつながっています。生物がエリア内外を移動できるネットワークを形成するとともに、都市のヒートアイランド現象を緩和する「クールスポット」としての役割も果たしています。
グリーンインフラと環境教育
雨水浸透型の植栽「レインガーデン」が導入されており、降雨時に雨水を一時的に土壌に貯留・浸透させることで下水道への流出負荷を抑制し、都市型洪水を防ぐ機能を持っています。植物の蒸散作用によって地表面の温度上昇を抑える効果もあります。
「ビオトープ観察日記」による情報発信や、和紙の原料となるコウゾの栽培・紙すき体験など、ビオトープを活用した環境教育プログラムが実施されています。訪れる子供たちが自然に触れ、環境保全の重要性を学ぶ機会が提供されています。
ららぽーと名古屋みなとアクルスの役割
中核となる商業施設「ららぽーと名古屋みなとアクルス」は、単なるショッピングモールを超えた地域コミュニティのハブとして機能しています。
イベントスペース「デカゴン」
屋外にある巨大な屋根付きイベントスペース「デカゴン」では、音楽ライブ、マルシェ、スポーツイベントなどが頻繁に開催されています。冬季の「スマイルツリープロジェクト」では市民参加型のイルミネーション装飾が行われ、多くの来訪者で賑わいます。これは「LINK」のコンセプトを体現する場といえます。
多世代が楽しめる空間
「みどりの大広場」でのピクニックや屋内遊具施設「あそびパークプラス」など、子育て世代から高齢者までが滞在できる空間設計がなされており、三世代で楽しめる場所として定着しています。ジョギングやウォーキングの前後に立ち寄り、食事や買い物を楽しむことができる利便性の高さも魅力です。
第II期開発とエリアの将来展望
みなとアクルスの開発は現在進行形であり、常に進化を続けています。現在は第II期フェーズに移行しており、エリアの機能はさらに多様化しています。
PORTBASE(ポートベイス)の開業
2025年3月、ライブハウス型ホール「PORTBASE(ポートベイス)」が開業しました。船をモチーフにした外観が特徴で、名古屋港エリアの新たなエンターテインメント拠点となっています。音楽やパフォーマンスを通じて夜間の賑わいが創出され、若者文化の発信地としても機能しています。
居住エリアの拡大
第II期開発エリアでは、大規模な分譲マンションの建設も進行しています。居住人口が増加することでCEMSによるエネルギー融通の効果がさらに高まるとともに、職・住・遊が近接したコンパクトシティとしての完成度が向上しています。
みなとアクルスでのジョギングを楽しむために
みなとアクルスは、日本の都市開発における「環境技術」と「人間中心の設計」が融合した先進的な事例です。ランナーにとっては、運河沿いの美しいジョギングコースや邦和みなとスポーツ&カルチャーでのアクティビティを通じて、心身の健康を取り戻せる場所となっています。
工場跡地から再生されたビオトープや運河の歴史的背景に触れることで、都市の記憶と自然の尊さを学べる場所でもあります。エネルギーセンターの存在や水素ステーションを通じて、2050年のカーボンニュートラル社会を先取りして体験できる点も大きな特徴です。
みなとアクルスは、訪れる人々に「次の(あくる)」時代のライフスタイルを問いかける、生きたショーケースといえるでしょう。名古屋でランニングやウォーキングを楽しみたい方は、ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか。









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