佐賀県唐津市には、唐津城と虹の松原をひとつのコースで走れるランニングルートがあります。虹の松原のビーチサイドは砂が締まっていて走りやすく、唐津城の天守閣から松原を見渡せる眺望も魅力です。距離や難易度が異なる複数のコースがあるので、この記事では選び方からアクセス、実際に開催されている大会情報までまとめます。

虹の松原は全長4.5kmで日本三大松原の中でも群を抜く規模
虹の松原は、唐津湾沿岸に弧を描くように連なる松原です。全長は約4.5キロメートル、幅は約500メートル、面積はおよそ216ヘクタールにおよびます。約100万本のクロマツが海岸線に沿って生い茂っており、この規模は日本三大松原の中でも群を抜いて大きいものです。静岡県静岡市の三保の松原、福井県敦賀市の気比の松原とあわせて日本三大松原と呼ばれ、1955年には国内の松原としては唯一、国の特別名勝に指定されました。特別名勝は、名勝の中でも特に価値が高いと認められたものだけに与えられる指定です。
この松原ができたのは、17世紀初頭にさかのぼります。初代唐津藩主の寺沢広高が、海岸沿いの砂丘地帯における防風・防潮を目的としてクロマツを植林したのが始まりでした。唐津湾一帯は玄界灘からの季節風が強く吹きつける地形で、砂の飛散や潮風による塩害から農地や集落を守るために、松の防砂林・防潮林としての役割が求められていたのです。江戸時代を通じて唐津藩はこの松原を厳重に保護し、無断で松を伐採した者は極刑に処されるほど厳しく取り締まったと伝えられています。こうした保護の積み重ねがあって、現代まで100万本規模の松林が維持されてきました。
虹の松原という名前は、唐津湾沿いに弧を描く松原の形が虹のように見えることに由来するといわれています。高台や展望台から見下ろすと、青い海と白い砂浜、緑の松林が織りなす帯状の景観がなだらかな曲線を描いて視界いっぱいに広がります。唐津城の天守閣や鏡山の展望台からの眺めは、走る前後に立ち寄る価値がある景色です。
現在の虹の松原は防風林としての機能を保ちながら、観光地・レジャースポットとしての側面も強く持っています。松林の中を通る道路や遊歩道はサイクリングやジョギングに使われ、海岸沿いのビーチはビーチランや散策、ヨガの舞台にもなっています。松原内にはカフェや宿泊施設も点在し、e-bikeでの周遊も観光の一環として提案されています。
日本三大松原のほかの2つと比べると、虹の松原の規模がよくわかります。静岡県静岡市清水区の三保の松原は、沿岸約5キロメートルにわたって約3万本の松が続く景勝地で、樹齢約650年とされる「羽衣の松」があることでも知られ、ユネスコの世界文化遺産「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」の構成資産にもなっています。福井県敦賀市の気比の松原は全長1.5キロメートル、アカマツとクロマツあわせて1万7000本ほどの松林で、国の名勝に指定されています。夏は海水浴場として賑わい、冬は雪化粧した松原と日本海の荒波が織りなす景色が見られる場所です。こうして並べてみると、約100万本という虹の松原の松の本数は、ほかの2つの松原と比べても際立って多いことがわかります。
唐津城は寺沢広高が名護屋城の廃材で築いた平山城
唐津城は唐津湾に突き出た満島山の上に築かれた平山城で、虹の松原とともに唐津観光の顔になっています。虹の松原と唐津城の間には松浦川の河口があり、松浦川を挟んで左右に虹の松原の緑が広がる地形から「舞鶴城」の異名でも親しまれています。地元の人々は、天守閣を鶴が羽を広げた姿に見立ててこの愛称で呼んできました。
唐津市は佐賀県の北西部にあり、東西約36キロメートル、南北約30キロメートルにわたる県内最大の面積を持つ自治体です。北は玄界灘に面していて、唐津湾は松原と砂浜が両翼に広がる地形になっています。湾のほぼ中央には高島が浮かび、周辺の海には加唐島や小川島、松島、馬渡島、向島といった島々が東松浦半島を取り囲んでいます。この海と砂浜と松林が組み合わさった地形そのものが、唐津のランニングコースの土台になっています。
築城したのは、虹の松原を植林したのと同じ初代唐津藩主の寺沢広高です。江戸時代初期、豊臣秀吉の死後に廃城となっていた名護屋城の遺材を利用して築城されたというのが定説として伝わっています。名護屋城は文禄・慶長の役の際に秀吉が九州に築いた城郭で、その資材が唐津城の建設に転用されたという経緯は、唐津の地が古くから軍事・政治上の要衝だったことを示しています。
築城当初の唐津城には天守閣がありませんでした。現在目にする5層の天守閣は、昭和41年に文化観光施設として新たに建設されたものです。内部は郷土博物館として整備され、唐津藩ゆかりの資料や、地域の伝統工芸品である唐津焼などが展示されています。
天守閣最上部は展望所になっていて、玄界灘の海原、松浦潟の入り組んだ海岸線、唐津の市街地を360度にわたって一望できます。虹の松原の緑の帯もこの展望所からはっきり見渡せて、唐津城と虹の松原がどれほど近くにあるかを実感できるはずです。日没後にライトアップされた夜の唐津城も、昼間とはまた違う表情を見せてくれます。
天守閣の下に広がる舞鶴公園は、季節ごとの花でも知られています。4月には桜が咲き、4月から5月にかけては藤の花も見頃を迎えます。園内には豊臣秀吉や小笠原長行の甲冑・兜のレプリカを着用できる体験コーナーもあり、家族連れにも人気があります。
唐津城の城下町では、毎年11月2日から4日にかけて「唐津くんち」という唐津神社の秋季例大祭が開かれます。獅子や龍、船や兜をかたどった14台の曳山が旧城下町を巡行する祭りで、平成28年にはユネスコ無形文化遺産にも登録されました。曳山は和紙と麻布を重ねて漆で仕上げた高さ7メートル余りの巨大な工芸品で、重さは2トンから3トンにおよびます。祭りの期間中は延べ50万人を超える人出があり、令和6年の開催では過去最大となる延べ64万人が訪れたそうです。ランニングコースと重なる唐津城下の道は、こうした祭りの舞台にもなっている場所だと知っておくと、走りながら見る街並みの見え方も変わってくるかもしれません。
唐津城と虹の松原をつなぐランニングコースは主に3パターン
唐津を走る一番の魅力は、歴史的な唐津城と自然景観の虹の松原を、ひとつのコースの中で続けて体験できることです。距離や負荷の違う3つのパターンがあるので、自分の体力や目的に合わせて選べます。
唐津駅発着の周遊コースは約14kmで3つの表情を味わえる
唐津駅を起点にする場合、唐津城の石段を上って天守閣周辺を経由し、天守閣下から唐津湾と虹の松原を展望したのち、白砂青松の海岸線を進み、クロマツ林の中を貫く車道や遊歩道を通って唐津市街へ戻ってくるルートが定番です。全長は約14キロメートルで、歴史散策、海岸ラン、松林トレイルという3つの異なる表情を一度に味わえます。
舞鶴橋から浜崎海岸まで約5kmのビーチランは初心者にも走りやすい
距離を抑えたい場合は、唐津城のある舞鶴橋周辺から浜崎海岸方面へ向かう約5キロメートルのビーチランコースが人気です。虹の松原のビーチサイドは砂が比較的硬く締まっていて、通常の砂浜のように足が深く沈み込みにくいという特徴があります。そのため初心者でも比較的走りやすく、唐津城を背景にしながら海沿いを走ることができます。潮風を感じながら走るのは、都市部のロードランとはまったく違う開放感です。
鏡山を組み込むコースは虹の階段1278段の下りが特徴
もっとアップダウンを楽しみたい人には、虹の松原の背後にそびえる標高約280メートルの鏡山を組み込んだコースもあります。イオン唐津店の駐車場付近からスタートし、鏡山を周回するように南側の登山道から入山、山頂近くの展望台から虹の松原の全景を眺めたのち、1278段ある「虹の階段」を使って下山するルートです。鏡山展望台からの眺めは、虹の松原が弧を描いている様子を一望できるビューポイントとして知られています。展望台の駐車場のそばにはカフェもあるので、休憩ポイントとしても使いやすいでしょう。
短時間で海辺の爽快感を味わいたいなら5キロのビーチランコース、歴史とビーチと松林を一度に満喫したいなら14キロの周遊コース、トレイル要素も求めるなら鏡山を含むコースというように、目的に合わせて選べる懐の深さが唐津のランニングコースの強みです。
唐津10マイルロードレース大会は虹の松原往復で高低差2.8mの平坦コース
虹の松原と唐津城周辺は、実際に公式のロードレース大会の会場としても長年使われてきました。代表的な大会が「唐津10マイルロードレース大会」です。50年以上の歴史を持つ大会で、唐津市陸上競技場を発着点として、国の特別名勝に指定されている虹の松原の中を往復するコースが設定されています。コース上からは唐津城の姿を間近に望むことができます。
コースの高低差はわずか2.8メートルで、ほぼ平坦です。約100万本のクロマツが玄界灘からの強い風を遮ってくれるため、記録を狙う選手にとっても走りやすい条件が整っています。種目は「高校10km」「女子10km」「高校女子5km」、そして一般選手が挑む「10マイル」(約16km)の4部門です。大学や実業団の有力選手から地域の高校生、市民ランナーまで幅広い層が同じ舞台で走る、新人選手の登竜門としても位置づけられている大会です。
唐津市浜玉町虹の松原クロスカントリー大会は松原と海岸を半分ずつ周回
もうひとつの代表的な大会が「唐津市浜玉町虹の松原クロスカントリー大会」です。会場は虹の松原・浜崎海岸特設コースで、コースの半分は松原の中を、残り半分は浜崎海岸沿いを走る平坦な周回コースになっています。松林の緑陰と、開放的な海岸線という2つの異なる風景を織り交ぜながら走れるのが、この大会の特徴です。開催回数を重ねている息の長い大会で、地域に根差したランニングイベントとして定着しています。
こうした大会が長く開催され続けていること自体が、虹の松原と唐津城周辺のエリアがランニングコースとして優れた条件を備えている証拠でしょう。平坦で走りやすい路面、強風を防ぐ松林、変化に富んだ景観、海に面した開放的なロケーション。これらの要素が組み合わさって、初心者から競技志向のランナーまで幅広い層にとって魅力的なフィールドになっています。普段は自由に走れるコースを、大会という特別な形式で仲間と走る体験は、また違った達成感を与えてくれるはずです。
アクセスはJR虹ノ松原駅か唐津駅から徒歩・電車で10分ほど
虹の松原へのアクセスは、公共交通機関ならJR筑肥線の「虹ノ松原駅」が最寄り駅になります。博多駅から電車で約1時間半、唐津の中心駅であるJR唐津駅からは約10分です。唐津駅を起点にランニングをスタートし、唐津城を経由して虹の松原方面へ向かい、虹ノ松原駅方面から唐津駅へ戻ってくるといったルート設計もできるので、電車の時刻を意識しながら計画的に走ることもできます。
駐車場は虹の松原周辺と唐津城周辺に点在している
車で訪れる場合、虹の松原周辺には複数の駐車場があります。予約制の駐車場サービスを利用すれば、シーズン中や大会開催日でも比較的スムーズに駐車スペースを確保できるでしょう。鏡山展望台の駐車場のそばにはカフェも併設されていて、ランニングの前後に休憩したり、車を停めて松原方面へ走りに出たりする拠点として使いやすい場所です。唐津城周辺にも観光客向けの駐車場が整備されているので、唐津城からスタートして虹の松原を目指すなら、唐津城周辺の駐車場を起点にするのがわかりやすいと思います。
なお、虹の松原ではレンタサイクルやシェアサイクル、e-bikeを使えるスポットも整備されています。ランニングだけでなくサイクリングでの周遊観光にも対応できるエリアなので、家族やグループで訪れて、走る人とサイクリングを楽しむ人がそれぞれのペースで同じ松原を満喫することもできます。
走るときの注意点は砂浜の締まり具合の見極めと潮風対策の2点
虹の松原のビーチサイドは砂が硬く締まっている区間が多いものの、場所によって砂の深さや状態は変わります。初めて走る場合はペースを抑えめにして、足元の感触を確かめながら進むと安心です。トレイルシューズやクッション性の高いランニングシューズを選ぶと、砂浜特有の足への負担を軽減できます。
一般的に、砂浜の上はアスファルトの路面より足元が柔らかく、姿勢を安定させるために普段より多くの筋肉を使うといわれています。柔らかい砂は着地時の衝撃を和らげてくれる一方で、足場が不安定なぶん足首をひねりやすいという側面もあります。虹の松原のように砂が締まっている場所は比較的走りやすいものの、波打ち際に近づくほど足が沈みやすくなるので、体力や走力に合わせて陸側と海側のどちらを走るか選ぶとよいでしょう。
松林の中を走るルートは日差しを遮ってくれるので、真夏でも比較的涼しく走りやすいという利点があります。約100万本のクロマツが作る緑陰は、玄界灘からの強い潮風を遮る防風林の機能も兼ねているため、風の強い日でも松原内は走りやすい環境が保たれています。一方で海岸沿いの区間は日差しや潮風を直接受けるので、季節や天候に応じてサングラスや帽子、日焼け対策を用意しておいたほうがよいでしょう。
ベストシーズンは桜と藤が重なる4月から5月にかけて
桜が咲く4月や、藤の花が見頃を迎える4月から5月にかけては、唐津城下の舞鶴公園周辺の花と虹の松原の新緑を同時に楽しめる時期です。夏場は海水浴客で賑わうため、ビーチラン中心のコースを選ぶなら人出の少ない時間帯を選ぶと快適に走れます。秋から冬にかけては空気が澄み、玄界灘の眺望がより鮮明になるので、展望を重視するなら唐津城の天守閣や鏡山展望台からの眺めを楽しむのに向いている季節です。
唐津のグルメは虹の松原がモチーフの松露饅頭と呼子のイカ
走ったあとの楽しみとして欠かせないのが、唐津の名物やグルメです。まず紹介したいのが「松露饅頭」です。餡を薄いカステラ生地で丸く包んだ唐津を代表する和菓子で、名前の由来は虹の松原に自生していた高級食用キノコ「松露」の姿に似ていることにあります。直径2.5センチほどの球形で、こし餡を使ったあっさりとした甘さが特徴です。豊臣秀吉の朝鮮出兵の後に高麗から伝わった焼き饅頭を、江戸時代創業の元祖あわび屋惣兵衛が工夫を重ねてつくり、時の藩主に献上したのが始まりとされています。虹の松原そのものが名前の由来になっているお菓子なので、松原を走ったあとに味わうと感慨深いはずです。唐津駅周辺や土産物店では複数の老舗が製造・販売していて、唐津みやげの代表格として親しまれています。
もうひとつ欠かせないのが、唐津から車で少し足を延ばした先にある港町・呼子です。呼子はイカの水揚げで全国的に知られていて、ケンサキイカやヤリイカ、アオリイカ、コウイカなど多彩な種類のイカが揚がります。新鮮なイカを刺身や天ぷらで提供する飲食店が港周辺に並んでいて、透き通るような活きづくりのイカは呼子観光の目玉です。毎朝7時半から正午にかけては松浦町商店街で朝市も開かれ、地元で獲れた魚介や旬の野菜、花などが並ぶ活気ある市の様子も楽しめます。走って汗を流したあとに、こうした新鮮な海の幸を味わう流れは唐津観光ならではの過ごし方でしょう。
唐津は城下町として発展してきた歴史から、伝統工芸である唐津焼の産地としても知られています。市内には唐津焼の窯元が点在していて、器を見て回ったり購入したりできます。唐津城の天守閣内に併設された郷土博物館でも唐津焼の展示があり、ランニングと合わせて焼き物文化に触れる時間を持つこともできます。
さらに足を延ばせる周辺の見どころとしては、豊臣秀吉が朝鮮出兵の際の拠点にした「名護屋城跡」や、玄界灘の荒波が玄武岩の断崖に削り出した7つの洞窟が連なる「七ツ釜」が挙げられます。唐津城の築城に名護屋城の廃材が使われたという伝承を踏まえると、名護屋城跡を訪れることで唐津城の成り立ちをより深く理解できるかもしれません。唐津湾に浮かぶ加部島には、玄界灘を一望できる「風の見える丘公園」や、佐賀県内でも最古とされる神社のひとつ「田島神社」もあり、島内散策も楽しめます。
唐津城と虹の松原を組み合わせたランニングコースは、歴史的な城郭建築、日本三大松原のひとつに数えられる特別名勝の松林、玄界灘に面した開放的なビーチという3つの魅力を一度に体験できる場所です。5キロ程度の手軽なビーチランから14キロにおよぶ周遊コース、鏡山を組み込んだアップダウンのあるコースまで、目的やレベルに応じて選べます。アクセスも唐津駅やJR虹ノ松原駅から比較的容易なので、初めて訪れる人でも計画を立てやすいエリアです。歴史とスポーツと自然が交差する唐津の地で、自分に合ったペースとコースを見つけてみてください。








