厳島神社の周辺には、初心者向けの海沿い周遊コースから上級者向けの弥山トレイルまで、距離や難易度の異なる複数のランニングコースがあります。世界遺産の社殿と大鳥居を眺めながら走れる立地は全国でも珍しく、早朝に走れば観光客の少ない静かな島を独り占めできます。この記事では、広島県廿日市市の宮島で実際に走れるコースを距離別に整理し、アクセス方法や鹿・潮位といった宮島特有の注意点まであわせてまとめました。

早朝の宮島はランナーにとって特別な時間帯になる
廿日市市が公表している集計によると、令和5年(2023年)の宮島来島者数は5,988,409人にのぼり、廿日市市全体の観光客数の74.6パーセントを占めています。これだけの人出がある島だからこそ、走る時間帯を選ぶかどうかでランニングの快適さは大きく変わります。宮島は日中、特に春休みや夏休み、紅葉シーズン、年末年始になると国内外からの観光客で表参道商店街も海沿いのエリアも大変混雑します。フェリーの始発に近い時間に上陸すれば、この混雑をほぼ避けられます。澄んだ空気の中で厳島神社と大鳥居を眺めながら走れる時間は、日中には得がたいものです。
フェリーが運航していない深夜から早朝にかけては、島民と宿泊客だけの静かな時間が流れています。宮島に宿泊してご来光ランニングを楽しむというプランも成立します。季節でいえば、蒸し暑さの厳しい真夏と観光客が集中する11月前後の紅葉シーズンは避け、春先か初夏、あるいは空気の澄んだ冬に走るのが快適です。
厳島神社は1996年に世界遺産へ登録され弥山原始林も対象区域になった
厳島神社が世界遺産に登録されたのは1996年(平成8年)12月です。建築様式の独自性や歴史的価値、自然との調和が評価基準として認められ、海上に浮かぶ社殿群の構造は世界的に見ても珍しいとされています。登録された区域は、社殿を中心とする厳島神社と前面の海、背後の弥山原始林を含む森林区域431.2ヘクタールにおよびます。弥山登山・トレイルランニングコースで走る区間の多くは、この世界遺産登録区域の内側に位置していることになります。
厳島神社・大鳥居周遊コースは3〜5キロで初心者にも走りやすい
宮島桟橋を起点に、表参道商店街、厳島神社、大鳥居、豊国神社(千畳閣)と五重塔、大聖院、宮島水族館「みやじマリン」を海沿いに沿って一周するのが、宮島観光の定番エリアを走る周遊コースです。桟橋からこれらのスポットを回って戻ってくると、距離はおおむね3〜5キロメートルに収まります。
干潮時には海沿いの砂浜を走ることができ、大鳥居のすぐそばまで近づけます。厳島神社を過ぎたあとは水族館方面に抜け、大聖院の参道を経由して弥山方面や紅葉谷公園につながるルートに合流することもできます。路面は観光地の遊歩道や参道が中心で、アップダウンも大きくないため、ランニング初心者やジョギング目的の方にも向いています。日中は観光客が多いので、スピードを抑えて歩行者との接触を避けることがマナーとして求められます。
包ヶ浦自然公園往復コースは6.6キロのアップダウンが走り応えを生む
もう少し距離を伸ばしたいランナーには、宮島桟橋から瀬戸内海国立公園に指定されている包ヶ浦自然公園までの往復コースが合っています。往復の距離はおよそ6.6キロメートルで、道中にアップダウンがあり、なかなか走り応えのあるコースです。
前半は市街地から山側の道を進み、後半は海沿いに出て瀬戸内海の穏やかな景色を楽しめます。海沿いに出てからの区間は視界が開け、多島美と呼ばれる瀬戸内海特有の島々の眺めを堪能できます。包ヶ浦自然公園自体はキャンプ場や海水浴場としても使われるエリアで、緑豊かな自然歩道も整備されており、公園の西端から始まる約3.2キロメートルの自然歩道は静かな林を抜けて紅葉谷公園方面につながっています。施設は時期によって休園や工事中になっている場合があるため、訪問前に現地の最新情報を確認しておくと安心です。
包ヶ浦自然公園が含まれる瀬戸内海国立公園は、1934年(昭和9年)3月16日に雲仙国立公園、霧島国立公園とともに指定された、日本で最初の国立公園のひとつです。指定当初の区域は小豆島の寒霞渓や香川県の屋島など瀬戸内海沿岸の一部に限られていましたが、その後の拡張によって山口県から和歌山県にまで及ぶ、日本最大級の面積を誇る国立公園に成長しました。宮島の包ヶ浦周辺もこの拡張の過程で公園区域に加えられており、緑豊かな自然歩道が今も守られています。
弥山登山・トレイルランニングコースの距離は往復8キロ
宮島の最高峰である弥山は標高535メートルで、その登山道はトレイルランニングを楽しむ上級者ランナーにも人気があります。登山ルートは複数あり、なかでも紅葉谷公園から山頂を目指す紅葉谷コースは比較的歩きやすく、初心者の登山者にもすすめられているルートです。このほか大聖院からのコースや大元公園からのコースなど、宮島観光協会が紹介する登山モデルコースがいくつも存在します。
弥山の登山コースは歩行距離がおよそ8キロメートル、歩行時間の目安は往復でおよそ2時間50分です。ランニングであればより短時間での往復も可能ですが、急な階段や岩場、木の根が張り出した区間も多く、トレイルランニングに慣れたランナー向けのコースといえます。山頂付近には巨石群や展望台があり、瀬戸内海を一望できる景色が広がります。弥山原始林は国の天然記念物に指定されている環境なので、指定された登山道を外れず、落石やほかの登山者にも注意しながら走る必要があります。
山頂近くの霊火堂には「消えずの火」と呼ばれる火があります。806年に灯されたとされる火が、以来1,200年以上にわたって燃え続けているとされ、大聖院の僧侶によって守り継がれてきました。弥山にはこの火のほかにも科学では説明のつかない伝承がいくつか残されており、山を巡るランニングやトレッキングに歴史的な背景を添えています。
体力や時間に余裕がない場合は、宮島ロープウエーを組み合わせる方法もあります。紅葉谷駅から榧谷(かやたに)駅を経由して獅子岩駅までを2本のロープウエーでつなぐルートで、営業時間はおおむね9時から16時まで(季節により変動あり)、往復運賃は大人(中学生以上)2,000円、小人(小学生)1,000円が目安です。多客期にはWEBでの乗車予約が必要になる場合があり、3ヶ月前から予約を受け付けています。登りはロープウエーで体力を温存し、獅子岩駅から山頂までの区間や下山時だけをランニングで楽しむ組み合わせ方なら、弥山に初めて挑戦するランナーでも無理なく絶景にたどり着けます。
宮島マラソンの15キロコースは島の西側海岸沿いを走る
宮島では毎年、地元主催の市民マラソン大会「宮島マラソン」が開かれています。2025年の大会は3月30日(日曜日)に広島県廿日市市宮島町で開催されました。種目は15キロメートル、5キロメートル、2キロメートル、2キロメートルの家族ペアの部です。
15キロメートルの部は、日中に観光客で賑わうエリアを避け、島の西側の海岸沿いを走るコース設定になっており、ふだんの観光では訪れる機会の少ない宮島の風景を楽しめます。5キロメートルの部は宮島学園から包ヶ浦を折り返す設定で、桜の時期に開催されることもあり、沿道の桜と鹿を眺めながら走れる、なだらかなアップダウンのコースです。大会に出なくても、これらの公式コースを参考に自分なりのルートを組み立てることはできます。大会で使われているコースは路面状況や道幅も走りやすく整備されていることが多く、宮島で初めて走る方の目安にもなります。開催日程やコースマップは宮島マラソンの公式サイトで随時更新されているため、参加を検討する場合は最新情報を確認してください。
宮島の鹿は奈良公園の鹿と違い餌が販売されていない
宮島には古くから神の使いとされる鹿が生息しており、島内のいたるところで見かけます。奈良公園の鹿と違い、宮島の鹿には鹿せんべいのような餌が販売されていません。そのため観光客が持っている地図やお菓子、ビニール袋を食べ物と勘違いして近寄ってくることがあります。ランニング中に紙製のゼッケンやエネルギー補給食を持っている場合は、鹿に狙われないよう注意してください。基本的にはおとなしく、一緒に写真撮影に応じてくれるほど人に慣れていますが、驚かせるような接し方は避けるのがマナーです。潮位が下がったタイミングでは、鹿が干潟に出て歩く姿が見られることもあります。
大鳥居まで歩けるかどうかは潮位100センチメートルが目安になる
厳島神社と大鳥居は海の上に浮かんでいるように見える景観で知られていますが、その景色は潮位によって大きく変わります。潮位がおおむね100センチメートル以下になると、大鳥居の下まで歩いて近づける干潮の状態になります。反対に潮位が250センチメートル以上になると、社殿や回廊が海面に浮かんで見える満潮の状態になります。潮位が360センチメートル前後から385センチメートル前後まで上がると、状況によっては神社が一時閉鎖される場合もあるため、参拝や撮影をコースに組み込む場合は宮島観光協会の公式サイトなどで潮汐表を事前に確認しておくと安心です。海沿いの遊歩道を走る際も、潮位によって歩ける範囲が変わることを覚えておきましょう。
宮島へは宮島口からフェリーで約10分
宮島はフェリーでしか渡れない島で、宮島口旅客ターミナルから宮島桟橋までは、フェリーでおよそ10分の船旅です。広島市内から宮島口までは車でおよそ40分が目安になります。公共交通機関を使う場合は、JR山陽本線のJR宮島口駅、または広島電鉄(路面電車)の宮島口電停からアクセスします。運航しているのは「JR西日本宮島フェリー」と「宮島松大汽船」の2社で、通常時は日中15分間隔、休日など多客期は10分間隔で運航しています。フェリー乗り場に向かって右側がJR西日本宮島フェリー、左側が宮島松大汽船の乗り場です。
フェリーの運賃は片道大人200円、小児100円で、これとは別に宮島訪問税として1人100円が必要です(2025年時点の情報)。支払いには現金のほか、ICOCAやSuica、PASMOなど全国相互利用対応の交通系ICカードも使えます。車で訪れる場合、宮島島内には駐車場がほとんどなく事前予約もできないため、車は宮島口桟橋周辺の駐車場に停めるのが基本です。宮島口周辺には数多くの駐車場があり、料金は1日500円から1,000円前後が目安です。混雑期にはパーク&ライド(駐車場と無料シャトルバスを組み合わせたアクセス方法)も用意されているので、繁忙期に車で訪れる予定であれば事前に確認しておくと安心です。ランニングウェアやシューズのまま観光地を歩くことになるため、着替えや荷物を預けられるコインロッカーの有無も調べておくと当日の行動がスムーズになります。
立ち寄りたい観光スポットは千畳閣や大聖院など4カ所
ランニングの合間や折り返し地点として立ち寄りたいのは、千畳閣、大聖院、宮島水族館、紅葉谷公園の4カ所です。厳島神社と大鳥居は、平清盛によって現在のような海上社殿の形式に整えられたとされる、宮島観光の中心的な存在です。潮位によって表情が大きく変わるため、干潮時と満潮時の両方を見比べるのもおすすめです。現在の大鳥居は平安時代から数えて9代目にあたり、明治8年(1875年)に再建されました。高さ16.6メートル、棟の長さ24.2メートル、総重量は約60トンとされ、木造の鳥居としては日本最大級で国の重要文化財に指定されています。シロアリ被害を受けた主柱の補強を目的とした大規模な修復工事は2019年6月に始まり、2022年12月に完了しました。厳島神社の社殿は平安時代の貴族の邸宅に用いられた寝殿造りの様式を取り入れており、1241年に現在の構成へ改築されたと伝わっています。本社と摂社をつなぐ朱塗りの回廊は東西方向に108間続き、柱と柱の間隔は約2.4メートルです。床板には潮の満ち引きに対応するための水はけの工夫として、あえて小さな隙間が設けられています。寺院建築の多くが左右対称であるのに対し、寝殿造りに由来する非対称な構成をとっている点も特徴です。
宮島は宮城県の松島、京都府の天橋立と並んで「日本三景」のひとつに数えられています。松島や天橋立は平安時代中期までに京都の貴族の間で知られた名勝地だったのに対し、宮島は平安末期に平清盛が厳島神社を篤く敬ってから、海浜と社殿群が一体となった景観がつくられたとされています。3つの景勝地がまとめて日本三景と呼ばれるようになったのは、江戸時代初期から中期にかけてといわれています。
豊国神社(千畳閣)は1587年、豊臣秀吉の命で建立が始まった大経堂です。戦で亡くなった人々を供養するため、僧侶が千部経を唱える場をつくろうとしたとされていますが、1598年に秀吉が世を去ると工事は誰にも引き継がれず、天井や壁が未完成のまま現在に至っています。江戸時代には交流や納涼の場として宮島の人々に親しまれ、明治時代の神仏分離令によって本尊の釈迦如来像が大願寺に移されたのち、秀吉を祀る豊国神社となりました。隣接する朱塗りの五重塔とのコントラストも見どころになっています。大聖院は弥山の麓に位置する真言宗御室派の大本山で、806年(大同元年)に開かれたとされる宮島最古の寺院です。参道には多くの羅漢像やお地蔵様が並び、荘厳な雰囲気があります。宮島水族館「みやじマリン」は1959年に広島県の施設として開設され、1967年には宮島町営の水族館として開業しました。2011年8月1日には瀬戸内海の生き物をテーマにリニューアルオープンし、愛称の「みやじマリン」は一般公募で決まったものです。瀬戸内海の生き物を中心に展示しており、コースの折り返し地点や休憩スポットとして使いやすい立地です。紅葉谷公園には約700本の紅葉が植えられており、イロハカエデが約560本ともっとも多く、オオモミジが約100本、ウリハダカエデやヤマモミジなどが約40本を占めます。例年11月中旬から下旬にかけてが見頃で、清流に朱色の影を落とす紅葉橋一帯の眺めが特に美しいとされています。弥山登山コースの起点のひとつでもあり、ロープウエー乗り場も近いため、登山とランニングを組み合わせたい人にとって便利な拠点になります。
走ったあとは名物のあなごめしともみじ饅頭を楽しめる
宮島まで足を運んだなら、走ったあとの楽しみとして名物グルメも欠かせません。宮島を代表する名物のひとつが「あなごめし」です。100年以上の歴史を持つとされる宮島の郷土料理で、香ばしく焼き上げた穴子と自家製のタレをたっぷりのご飯にのせた一品を、島内の老舗から新しい店舗までさまざまな形で味わえます。厳島神社の近くには、古民家を改装した店舗であなごめしを提供する店もあり、参拝やランニングのあとの食事に向いています。串に刺したあなごめしを提供する屋台形式の店も登場しており、時間の限られたランナーでも気軽に味わえます。
もうひとつの宮島名物は「もみじ饅頭」です。もみじの葉をかたどった焼き菓子で、こしあんやカスタードクリーム、チョコレートなど、店舗によって味のバリエーションが楽しめます。表参道商店街には老舗の製造直売店が軒を連ねており、揚げもみじ饅頭を食べ歩きしながらランニング後の島内散策を楽しむこともできます。
走行中に気をつけたいのは混雑、潮位、鹿の3点
宮島は世界文化遺産に登録されているエリアを含む観光地であり、地域住民の生活の場でもあります。日中の表参道や神社周辺は観光客で非常に混雑するため、走行する際はスピードを落とし、歩行者との接触に十分注意してください。海沿いの砂浜や干潟を走る場合は潮位の変化に注意が必要です。満ち始めるタイミングを見誤ると、想定より早く道が海に沈んでしまうことがあります。
鹿に食べ物と間違われるような紙類やビニール袋は、できるだけ見えないようにしまって走りましょう。弥山などの登山道やトレイルでは、指定されたルートを外れず、天然記念物である原始林の保護にも配慮してください。早朝や夜間に走る場合は、フェリーの運航時間を必ず事前に確認しておく必要があります。始発前や終電後は島から出られなくなるため、宿泊の予定がない日帰りランナーは特に注意してください。観光地であるため、ゴミは必ず持ち帰り、地域の景観と環境保全に協力することも忘れてはいけません。
宮島・厳島神社周辺は、世界遺産の景観と瀬戸内海の自然を同時に楽しめるロケーションのランニングエリアです。初心者向けの厳島神社・大鳥居周遊コースから、中級者向けの包ヶ浦自然公園往復コース、上級者向けの弥山トレイルランニングコース、公式の宮島マラソンコースまで、レベルや目的に合わせてコースを選べます。フェリーの運航時間や宮島訪問税、鹿への対応、潮位の変化といった宮島ならではの事情を事前に押さえておけば、快適で安全なランニングにつながります。早朝の時間帯は観光客が少なく、朱色の大鳥居と静かな瀬戸内海の景色を独り占めできる時間が待っています。広島への旅行や出張の際は、宮島でのランニングも旅程に組み込んでみてください。








